CFの見方
利益と現金の違いを理解し、営業・投資・財務の一覧から現金残高まで読む。
CF計算書を上から最後まで追い、現金が増減した場所を説明できる。
企業実例:三井不動産/練習問題3問/更新日:2026年9月13日
1. CFは「期間中の現金の動き」
CF(Cash Flow/キャッシュ・フロー)は、一定期間に現金がどこから入り、どこへ出ていったかを示します。PLの利益が黒字でも、売上の入金が遅かったり、在庫の仕入れが先に必要だったりすると現金は減ります。
CF計算書では「現金及び現金同等物」を使います。現金同等物は、容易に換金でき、価値変動リスクが僅少な短期の投資など。BSの「現金及び預金」と範囲が必ず同じとは限りません。

2. 営業・投資・財務を分ける
| 分類 | 主な入出金 | 読み方 |
|---|---|---|
| 営業CF | 商品代金の入金、仕入・人件費・税などの支払 | 事業から現金を回収できたか |
| 投資CF | 設備取得、設備売却、有価証券取得・売却など | 何に投資し、何を手放したか |
| 財務CF | 借入・社債、返済、配当、自社株買いなど | どう調達し、誰に返したか |
プラスは現金流入、マイナスは流出。ただし、プラスだから良い、マイナスだから悪いとは決まりません。設備投資は将来の稼ぎのために現金を使うので、投資CFはマイナスになることがあります。
財務CFのプラスは借入増加など、マイナスは返済や株主還元などかもしれません。符号だけでなく、内訳を読みます。利息・配当などの分類は会計基準・表示方法によって異なるため、実際の会社のCF計算書を確認しましょう。
3. 利益と営業CFが違う理由
掛売り:売上は立つが、まだ入金されない
架空の商店が商品を100万円で掛売りし、原価60万円を現金で支払ったとします。利益は40万円でも、代金が未回収なら現金は60万円減ります。利益と現金のタイミングが違うためです。
減価償却:今期の費用と今期の支払は違う
機械の購入代金は購入時に支払いますが、PLでは使用期間に費用を配分します。間接法の営業CFでは、利益に含まれた減価償却費を足し戻します。ただし「減価償却が現金を生む」わけではありません。
運転資金:売掛金・在庫・買掛金を見る
売掛金が増えると未回収が増え、在庫が増えると販売前の商品にお金が留まります。一般に営業CFを押し下げます。買掛金が増えると支払が後になり、一般に営業CFを押し上げます。現金以外の変動や連結範囲の変更があるため、BSの差額とCFの調整行が常に一致するとは限りません。
その他の損益・調整はない単純化した例。一般的な間接法の仕組みを示しています。
4. 企業実例を全体で読む
最新四半期の短信ではCF計算書が作成されていないため、CF計算書全体が確認できる最新通期を使います。前回BSの2026年6月末と、今回CFの2026年3月末は別の時点です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業活動 | ||
| 税金等調整前当期純利益 | 363,060 | 397,014 |
| 減価償却費 | 140,516 | 150,976 |
| 減損損失 | 10,894 | 19,757 |
| 受取利息及び受取配当金 | △11,770 | △10,754 |
| 支払利息 | 82,349 | 76,999 |
| 持分法による投資損益(△は益) | 2,472 | 4,352 |
| 投資有価証券売却損益(△は益) | △54,505 | △51,676 |
| 固定資産売却益 | △29,186 | △51,776 |
| 売上債権及び契約資産の増減額(△は増加) | 1,072 | △6,627 |
| 仕入債務の増減額(△は減少) | 9,410 | △3,492 |
| 販売用不動産の増減額(△は増加) | 40,302 | △151,032 |
| その他(営業) | 204,094 | △42,955 |
| 小計 | 758,708 | 330,785 |
| 利息及び配当金の受取額 | 19,625 | 16,608 |
| 利息の支払額 | △78,873 | △75,410 |
| 法人税等の支払額又は還付額(△は支払) | △100,208 | △126,712 |
| 営業活動によるCF | 599,252 | 145,270 |
| 投資活動 | ||
| 有形及び無形固定資産の取得による支出 | △271,480 | △236,411 |
| 有形及び無形固定資産の売却による収入 | 43,965 | 135,389 |
| 投資有価証券の取得による支出 | △137,092 | △127,743 |
| 投資有価証券の売却による収入 | 103,574 | 73,042 |
| 敷金及び保証金の差入による支出 | △11,269 | △9,894 |
| 敷金及び保証金の回収による収入 | 8,678 | 7,109 |
| 預り敷金保証金の返還による支出 | △24,836 | △38,129 |
| 預り敷金保証金の受入による収入 | 49,377 | 59,490 |
| 貸付けによる支出 | △72,641 | △34,606 |
| 貸付金の回収による収入 | 42,609 | 21,609 |
| 定期預金の預入による支出 | △1,729 | △3,415 |
| 定期預金の払戻による収入 | 5,967 | 3,415 |
| 連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出 | △8,082 | △777 |
| 同・取得による収入 | 41 | — |
| 同・売却による収入 | 180 | — |
| その他(投資) | △49,232 | △28,091 |
| 投資活動によるCF | △321,970 | △179,014 |
| 財務活動 | ||
| 短期借入れによる収入 | 4,396,385 | 6,189,920 |
| 短期借入金の返済による支出 | △4,364,429 | △6,137,216 |
| 長期借入れによる収入 | 427,268 | 487,500 |
| 長期借入金の返済による支出 | △545,025 | △485,103 |
| 社債の発行による収入 | 45,060 | 203,680 |
| 社債の償還による支出 | △80,602 | △104,800 |
| 配当金の支払額 | △87,534 | △91,467 |
| 非支配株主からの払込みによる収入 | 3,780 | 2,976 |
| 非支配株主への配当金の支払額 | △8,447 | △7,471 |
| 非支配株主への払戻による支出 | △1,865 | △1,952 |
| ファイナンス・リース債務の返済による支出 | △11,862 | △13,731 |
| 自己株式の増減額(△は増加) | △42,093 | △99,913 |
| 連結範囲の変更を伴わない子会社株式取得による支出 | — | △4,294 |
| 同・売却による収入 | — | 2,755 |
| 財務活動によるCF | △269,367 | △59,118 |
| 現金残高へのつながり | ||
| 現金及び現金同等物に係る換算差額 | △24,312 | 11,906 |
| 現金及び現金同等物の増減額(△は減少) | △16,397 | △80,955 |
| 現金及び現金同等物の期首残高 | 179,249 | 163,272 |
| 新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額 | 421 | — |
| 現金及び現金同等物の期末残高 | 163,272 | 82,317 |
出典:三井不動産 2026年3月期決算短信、添付資料21〜22ページ(PDF23〜24ページ目)。表示単位は百万円、百万円未満切捨て。△は負の値、「—」は原資料の表記です。
5. 内訳から現金減少を説明する
公表CFの合計から計算した期末は82,316、公表期末は82,317。百万円未満切捨てによる1百万円の表示差があります。各行は公表値です。
現金は減ったが、営業CFはプラス
営業CFは145,270百万円(1,452.70億円)の流入。投資CFは179,014百万円、財務CFは59,118百万円の流出でした。換算差額のプラス11,906百万円も反映した現金の増減公表値は△80,955百万円です。
利益だけでは現金を説明できない
同じ通期の税引前利益は397,014百万円。営業CFは145,270百万円で、表示値の差は251,744百万円です。減価償却費150,976百万円を足し戻す一方、販売用不動産の増減による調整は△151,032百万円、税金の支払は△126,712百万円など、複数の項目が現金を押し下げています。
「差額は全部在庫」「利益が現金化されていないので不正」とは言えません。間接法の調整を最初から最後まで追います。投資有価証券や固定資産の売却益を営業CFで引くのは、売却代金を投資CFなどで扱うための調整です。
投資CFは、設備購入額そのものではない
固定資産取得の支出△236,411百万円に対し、固定資産売却の収入135,389百万円があります。そのほか有価証券・貸付なども含まれるので、投資CF△179,014百万円と設備購入額を混同しないようにします。
財務CFは大きな入出金の差額
短期借入収入6,189,920百万円と返済支出△6,137,216百万円が両方あります。調達収入だけを見て、全額が借金の純増と考えてはいけません。配当△91,467百万円、自社株に関する流出△99,913百万円なども含めて判断します。
収入 +6,189,920
返済 △6,137,216
+52,704
収入−返済で計算
2026年3月期の公式CFから作図。この純収支は短期借入の2行だけの計算で、財務CF全体やBSの借入残高の変化と同じではありません。
出典:三井不動産 2026年3月期決算短信、添付資料21〜22ページ(PDF23〜24ページ目)。表示単位は百万円、百万円未満切捨て。△は負の値、「—」は原資料の表記です。
6. 練習問題:表だけで計算する
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 期首現金 | 50 |
| 営業CF | 30 |
| 投資CF | △40 |
| 財務CF | 20 |
| その他調整 | 0 |
① 期末現金は?
② 営業CF+投資CFは?
③ 現金が増えたことだけで、本業の現金収支が改善したと言えますか?
問題1の解答・途中計算
① 50+30−40+20=60万円。
② 30−40=△10万円。
③ 言えません。営業CFはプラスですが、投資も含めると10万円不足し、財務CF20万円の流入が現金増加を支えています。本業の「改善」は前年営業CFがないため判断できません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 税引前利益 | 100 |
| 減価償却費 | 20 |
| 売掛金の増加 | 30 |
| 在庫の増加 | 10 |
| 買掛金の増加 | 15 |
| 税金の現金支払 | 5 |
その他の調整はありません。① 営業CFは?
② 減価償却費を足す理由は?
売掛金・在庫の増加は減算、買掛金の増加は加算します。
問題2の解答・途中計算
① 100+20−30−10+15−5=90万円。
② 利益計算で差し引かれた減価償却費は、当期の現金支出を伴わないため足し戻します。機械購入代金の支払がなかったという意味ではありません。
| 項目 | 公表値 |
|---|---|
| 営業CF | 145,270 |
| 投資CF | △179,014 |
| 財務CF | △59,118 |
| 換算差額 | 11,906 |
| 期首現金及び現金同等物 | 163,272 |
| 期末現金及び現金同等物(公表) | 82,317 |
| 固定資産取得による支出 | △236,411 |
| 固定資産売却による収入 | 135,389 |
① 営業CF+投資CFは?
② 固定資産の取得・売却だけの純収支は? これを投資CF全体と同じとみなせますか?
③ CFと換算差額から期末現金を計算してください。百万円未満切捨てで公表値との表示差があります。
問題3の解答・途中計算
① 145,270−179,014=△33,744百万円。
② −236,411+135,389=△101,022百万円。投資CF△179,014とは違います。投資CFには固定資産以外の入出金も含まれます。
③ 163,272+145,270−179,014−59,118+11,906=82,316百万円。公表期末82,317との差は1百万円で、切捨てによる表示差です。
出典:上記公式通期決算短信、添付資料21〜22ページ。
7. まとめ
次回は「PL・BS・CFのつながり」。3つの表を同じ会社で合わせて読みます。
学習用記事です。特定銘柄の売買を推奨しません。資料確認日:2026年9月13日。以後の決算は自動反映されません。
