おとなのファイナンス
CMA|第0章・第3回
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CMA · 第0章 · 第3回 · CORE

投資とは何を買っているのか

会社の評判ではなく、将来キャッシュフローへの権利と、その価格を考える。

この回のゴール
株主価値とEVを区別し、価格・キャッシュフロー・市場の期待を分けて説明できる。

教材番号 0-03/練習問題3問/更新日:2026年9月15日

講義動画

動画埋め込み枠

1. 株式を買っても、会社の金庫を自由に使えない

株式を買うと、会社の持分と株主としての権利を持ちます。しかし、会社の現金を自分の口座へ移したり、会社の土地を自由に売ったりできるわけではありません。

経済的に考えると、買っているのは将来、会社が事業から生む資金のうち株主に帰属する部分への権利です。配当、株式の売却、清算時の残余財産などの形で受け取ります。

会社の事業 — 顧客から代金を受け取り、人件費・仕入・税金などを支払う。
投資・債務などへの対応 — 設備投資、借入返済等にも資金を使う。
株主に帰属する価値 — 還元するか、収益性のある事業へ再投資するかを選ぶ。

黒字でも売掛金が増えれば現金はすぐに入らないことがあります。会計利益とキャッシュフローを同じものとして読まないことも、この地図の一部です。

自社株買いで代金を受け取るのは株式を売った株主です。保有し続ける株主全員へ現金が直接配られるわけではありません。

2. 事業全体の価値と、株主の取り分は違う

架空のラーメン会社の価値(万円)
項目金額
事業価値(EV)10,000
有利子負債4,000
余剰現金1,000
株主価値7,000
株主価値=EV−有利子負債+余剰現金
10,000−4,000+1,000=7,000万円

EV(Enterprise Value)は企業価値のうち事業全体を評価する際の指標。株主価値(Equity Value)は株主に帰属する価値です。この簡略例では、事業を評価した後、借入を差し引き、事業外の余剰現金を加えます。

上場企業なら、株価×発行済株式数が市場での株主価値を考える起点です。実務では自己株式、希薄化、非支配持分、リースなどの取扱いをそろえます。

事業運営に必要な現金まで、いつでも全額加算できるとは限りません。「現金を足す」の前に、その現金が事業価値の評価に含まれていないか確認します。EVの日本語表現も資料によって使い方が異なるため、定義を読みます。

3. 将来の100万円を、今日の100万円と比べない

1年後に受け取る100万円には、時間とリスクがあります。今日の価値へ戻す計算を現在価値(Present Value)と呼びます。

現在価値=将来キャッシュフロー÷(1+割引率)
100万円÷1.10=約90.91万円
架空例:1年後の受取100万円
割引率今日の価値
5%約95.24万円
10%約90.91万円
20%約83.33万円

同じ受取でも、要求リターンが高ければ今日の価値は低くなります。事業全体のCFには事業全体に対応する割引率、株主のCFには株主の要求リターン、と対応をそろえることが重要です。

将来CFが長く成長するなら価値を高める要因になりますが、高い成長のための再投資も必要です。売上成長だけを見て、設備投資・運転資本の負担を忘れないようにします。

4. 良い会社と、良い投資は同じではない

優れた会社でも、価格に高い成長がすでに織り込まれているなら、投資リターンが高いとは限りません。投資では「この会社が良いか」に加え、「この価格で買うと何が期待できるか」を考えます。

架空例:同じ企業への評価
項目市場の想定自分の想定
翌年EPS100円150円
想定PER10倍10倍
想定株価1,000円1,500円

EPS(Earnings Per Share)は1株当たり利益、PER(Price Earnings Ratio)は株価収益率です。株価=EPS×PERの関係で整理すると、利益予想と利益に付ける倍率を分けられます。

ただし、自分の予想150円が正しい保証はありません。PERも一定とは限らず、EPSの改善と同時に倍率が下がることもあります。「割安に見える差」は確定利益ではなく、予想の差です。

企業実例:配当計画と株式リターン

KDDIは2027年3月期の1株当たり配当を84円と計画しています。仮に株価2,800円なら計画配当利回りは3%ですが、2,800円はここだけの架空価格です。実際の株式リターンには株価変動も加わり、計画配当も確約ではありません。

KDDI 個人投資家向け案内(2026年9月15日確認)。利回りの分母は市場で支払う価格です。

5. まとめ画像で、価値と期待を復習する

投資とは何を買っているのかの提供されたまとめ画像
提供されたまとめ画像。クリックすると拡大できます。

6. 練習問題

問題1

問題で使う条件(万円)
項目
EV10,000
有利子負債4,000
余剰現金1,000
その他の調整0

株主価値はいくらですか。

答えと解説を見る

10,000−4,000+1,000=7,000万円です。事業全体の価値から株主の取り分へ調整します。

問題2

問題で使う条件
項目
1年後の受取110万円
割引率10%

今日の現在価値はいくらですか。

答えと解説を見る

110÷1.10=100万円です。将来の受取を、時間とリスクに対応する割引率で現在へ戻します。

問題3

問題で使う架空の株価計算
項目現在変化後
EPS100円150円
PER10倍8倍

株価はどう変わりますか。EPSが50%増えたので株価も50%増えますか。

答えと解説を見る

現在1,000円、変化後1,200円。株価上昇は20%です。EPSは50%増えても、PERが下がるため株価の上昇率は同じではありません。

7. まとめと出典

何を受け取る権利か。将来いくらか。今日いくらで買うか。

この3つを分けると、良い会社の説明から、投資判断のための価値・価格の比較へ進めます。

参考:JPX『株式ABC』、企業実例:KDDI 個人投資家向け案内。提供画像を使用し、企業の配当計画以外の数値例・株価は架空です。