株式会社はなぜ存在するのか
株主・債権者・経営者の3つの立場から、会社にお金が集まる仕組みを理解する。
出資と借入を区別し、所有と経営の分離、株主の残余請求権を説明できる。
教材番号 0-01/練習問題3問/更新日:2026年9月15日
講義動画
1. 会社は、お金と人を集めて事業を続ける仕組み
ラーメン店を開くのに1,000万円必要。でも創業者には100万円しかない。足りない900万円をどう集めるでしょうか。銀行から借りる方法もあれば、事業に期待する人に出資してもらう方法もあります。
株式会社は、事業のために出資を集め、会社として設備を持ち、人を雇い、取引する仕組みです。会社の財産と株主個人の財産を分け、多数の人が参加しやすくします。創業者一人の資金や寿命に依存せず、事業を継続しやすいのも特徴です。
「会社にお金がある」と「創業者が自由に使える」は別です。会社の資金は会社の事業のためのもので、個人の財布ではありません。
2. 900万円を借りるか、出資してもらうか
| 項目 | 銀行から借りる | 株主に出資してもらう |
|---|---|---|
| 元手 | 借入900万円 | 出資900万円 |
| 見返り | 契約に従った利息・元本返済 | 配当や株式価値の上昇 |
| 赤字の年 | 原則、契約上の返済義務は残る | 通常、固定の返済期限はない |
| 成功したとき | 通常は契約上の受取が中心 | 残る利益・価値の増加を享受 |
| 倒産したとき | 回収できない可能性がある | 出資を失う可能性がある |
借入は、事業の成功度にかかわらず契約上の支払を要求される点が重要です。出資は、通常「5年後に900万円を必ず返す」といった約束ではありません。その代わり、株主は事業の失敗を負担し、成功時の価値を共有します。
普通株式の株主は一般に出資額の範囲でリスクを負います。ただし創業者が個人保証を付けた借入などは別の義務を生むことがあります。「株式会社だから個人にリスクが一切ない」とは言えません。
3. 所有者と、会社を動かす人は分けられる
株主
出資・議決権会社の持分を持ち、重要事項や取締役の選任などに関わる。
経営者
事業の運営人材・設備・投資案件に資源を配分する。
債権者
契約上の請求元本返済・利息などを契約に基づいて受け取る。
株主が全員、店舗や工場で働く必要はありません。経営を専門家に任せられる一方、経営者が株主の望む判断をするとは限りません。この利害のずれをエージェンシー問題(agency problem)と呼びます。
例えば会社に余剰資金があるとき、経営者は規模拡大のために買収したい、株主は収益性が低い投資なら還元してほしい、銀行は返済に備えて現金を残してほしい、と考えるかもしれません。誰か一人の視点だけでは会社の判断を理解できません。
企業実例では、KDDIの株式・格付け情報に株主総会、配当、大株主、格付け・社債の情報が並びます。同じ企業でも、株主向けの情報と債権者向けの情報があることを確認できます。
4. 株主は「最後に残る価値」を持つ
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 全資産を売った代金 | 100 |
| 先に返す銀行借入 | −80 |
| 株主に残る金額 | 20 |
この例では100−80=20億円が株主に残ります。株主の立場を残余請求権(residual claim)と呼びます。「最後に残るものを受け取る」権利です。
売却代金が60億円しかなければ、銀行の80億円を全額返せず、株主には通常何も残りません。株主価値を−20億円として株主に当然請求するわけではありません。優先順位と、有限責任を分けて考えます。
実際の清算では税金・従業員への支払・担保・債権の種類なども関係します。これは銀行借入以外を無視した簡略例です。継続企業の価値をそのまま清算代金だと考えないでください。
5. まとめ画像で、3つの立場を復習する

画像中の清算例は、その他の債務や税金を無視したものです。事業価値・資産の売却代金・株主価値は、前提をそろえて使い分けます。
6. 練習問題
問題1
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 開業に必要な資金 | 1,000 |
| 創業者が用意した資金 | 100 |
不足額はいくらですか。銀行から借りる場合、出資と違って通常どんな支払義務がありますか。
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不足は1,000−100=900万円です。借入では通常、契約に従った元本返済と利息支払の義務があります。出資には通常、固定の元本返済期限はありません。
問題2
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 資産売却代金 | 100 |
| 銀行借入 | 80 |
| その他の支払 | 0 |
株主に残る金額はいくらですか。
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100−80=20億円です。借入を先に返し、残った金額が株主に帰属します。
問題3
会社に現金100億円。経営者は買収、株主は還元、銀行は現金の維持を望んでいます。
3者の希望が異なることから、何が分かりますか。
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同じ会社でも、立場によって目的・リスク・受取の順番が異なることが分かります。経営者と株主の利害のずれはエージェンシー問題の一例です。
7. まとめと出典
株式会社は資金提供と経営を分けられる仕組み。株主は事業の成果のうち、他の支払の後に残る価値を持ちます。
参考:JPX『株式ABC』、KDDI 株式・格付け情報。図解は提供された教材画像、数値問題は架空例です。
